……誰が来たの?


「…どうして、あたしが下宿するの?」
「もしかすると、理由が知りたいのかな?」
「だって…いきなりそんなこと聞かされても…」
「うっ…」
「いいたくなさそーね」
当然の質問に馨子の父、冷汗たら〜り たらたら。
「…いや…いつかはわかってしまうことだな。あれは…そう……」
ゴクリ… 唾を飲み込む馨子。


「大将!太古酒ね!」
馨子の父と貴也の父が飲み屋で話している。
「そうか…いい物件を紹介してくれてありがとう、岡田君!!」
「しかし、思い切ったことをするな……息子一人残して海外へとは…」
「わしの‘愛’がそうさせているのだ……」
「大丈夫かね?英君…」
だっはっはっはっはっ! 愛が全て!!!」
「相変わらずだな英君は…」
「ところで…本当に大丈夫なんだろうね?」
「ん…何が?」
「その下宿館…部屋の借り手はつくんだろうね?」
「今や森高尾といえば都下一の学生区だよ!学生の一人暮らしが増えている現 在…毎年シーズンともなると抽選をするほどなんだから…」


「…って感じで昔からの友人にだな…」
ふるふる…怒りに身体が震えてくる。
「確かに新入学シーズンはそうかも知れないけど、もう学校始まって何か月も たってるもん。…今ごろ借り手なんて…」
「だーかーらっ!馨子にだなっ!!!」
「つーん」
そっぽを向く馨子。馨子の父は馨子の腕を掴んでせまる。
「来年の春には、きっと…多分…もしかすると借り手がつくから…それまでの 間だけでいいんだが…」
「もう…しょうがないな……下見に行ってみるから。明日なら土曜日だし…地 図をちょうだいね」
必死に訴える父の姿に負けた。それにあまり顔を近づけ続けられたくない。 「ありがとう!!!馨子!!!!!
思いっきり馨子を抱きしめる父。かなり苦しい…
「…で、母さんのほうはなんて?」
「心配はいらんよ!『あなたと二人きりになるなんて…まるで新婚時代のよう ですわねS2』だって」
「やっぱり…」
“あたしは夫婦仲の良い両親で幸せだわ…”


「ああ…退屈……」
次の日。部屋でぼ〜っと空を眺めてるリア。
「貴也のヤツは?」
「高校の転校手続きとかで出かけてるみたい…」
服を整理しながら答えるベル。そのほとんどはピンクハウス。
「なぁ…アタイたちってこれから‘あの日’までずっとずっとずーーっと、こ こにいるわけ?」
「姉様がそのつもりなんだもの… だったらディスクを早く直しちゃえばいい のよ!」
“う゛”
「マイクロスコープ使ってピコメートル単位で修復してるんだ!1日や 2日で 直るかよ!!」


「下宿館…まだ見えてこないよ」
真理が馨子に問いかける。英荘に下見にやって来た…いや、その途中の二人。 階段を幾つ登っただろうか。
「とんでもない場所にあるみたいね…」
「来週から…そこに住むのよ、あたし…」
「足…太くなるね…」
「……………」


「!?」
不意にリアの頭を掴む手が!!窓に顔を近づけるベル。押し退けられるリア。
「誰か…貴也さん以外の人がこっちに来るわ…」
「だからって…何で隠れなきゃいけないんだよ!?」
本当は無理矢理押し退けられた理由を聞きたい。床に頭ぶつけてとても痛い。
「だって…朝、貴也さんが『まだこの下宿には僕以外住んでいないことになっ てるから、留守中はあまり目立たないようにしていてくれよ。特に…リア』っ て言ったでしょ!」
「そーだっけ?」


「あ…」
馨子と真理の前に建つ英荘。二人はしばらく声を失う。
「想像以上にボロ…」
「そ、そうね…あら?いい香りが…」
馨子はフォルの作っている料理の香りに気付く。
「ここを買った人いる見たいね…それとも、大家さんかしら」
「あいさつしてく?」
「ん…今日は下見だけ…来週父さんと来てそのときに…」
「それじゃあ帰ろうよ…あたしもうクタクタだもん」
「だったら下山しましょ!」
「その表現やめて…」
「帰りつく前に、遭難したりして」
「う〜ん、ありえるわね」
「ありえないわよ。お願いだから否定してよ!」
「女子高生、自宅に帰る途中で行方不明…遺体発見、餓死か!?」
「やめてよぉ、本当に洒落にならなくなりそうなんだから、ここ」


去っていく二人を観察しながら、
「何をしに来たんだ?」
「さぁ?何だったのかしら」
「でさぁ、ベル」
ベルの頭を殴る。
「キャン! 痛ぁい!何するのよ、リア!」
「さっきのお返し。痛かったんだから」
「う゛〜」


「ただいまぁ!」
「お帰りなさい、貴也さん」
靴を脱ぎかけて顔を上げてみるとフォルが笑顔でお出迎え。思わず見とれてし まう。
「何、ボーッとしてんだよ?」
「う゛」
現実に引き戻すリアの声。

「昼間…人間が 2人来てたぞ!」
「誰かな?この街にはまだ知合いなんていないし… ん!?もしかすると…フォ ルが作ってくれたの?」
共同リビングのドアを開けるとご馳走が用意してある。
「はい…まだ本のとおりに作っただけなので、‘うま味’が分からなくて完璧 ではないのですが…」
幸せな貴也。羨ましいゾこの。

「それではいただきま…」
“!!”
「来る!!」
突然エビフライをフォークに指したまま立ち上がるリア!!


「ふっ!」
コクピットで不敵な笑みを浮かべる女性…


ガカッ!
英荘を衝撃が襲う。
「きゃっ!」
フォルはたまらず貴也に抱きつく。ますます羨ましいゾ。
“地震?…じゃないよな…”
「こ…これは!?!?」
“大丈夫かなこの家”
天井からゴミが降ってくる。意外と冷静な貴也。そしてもう一人冷静な者がい た。
「大気圏内にレヴィアウトするなんて‘アレ’しかないよ…」
冷静、だけれども別の意味で不安げ。しっかりとエビフライをかじってるけど…
「…ってことは」
「…うん」
「来ちゃったんだ!!」
ベルも事態を理解し、深刻そう。
“?”
この事態を理解してない者が約 2名。


空中に浮かぶ黒い機体。凶暴そうなそれは、ゆっくりと降下して来ている。英 荘に向かって…


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Last modified: 2000/ 7/15 5:24
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