『電脳天使〜リアと赤ちゃん〜』(改)


これは、私が考えた話をちはやさんがアレンジ してくれたものです。物語中の時間は、PC Engine版の後半‘アイスクリーム で二人羽織’の少し前ぐらいを想定してらっしゃるようです。


RRRR――…。
フォル 「――はい、英荘です」
電話の声(女性) 「もしもし、高島と申しますけれど――…。貴ちゃんは、いまそちら にいるかしら?」
フォル 「……‘貴ちゃん’? あ――貴也さんのことですねっ。しょうしょ うお待ちくださいな。 貴也さん――お電話ですよ」
貴也 「――は〜い。あの、もしもし……英ですケド――…」
電話の声(女性) 「――貴ちゃん、元気してた? あたし――佐知子よ」
貴也 「あぁ……佐知子姉さん? 久し振りだね――…。今日は、どぅした の?」
ミリ(OFF) 「――クレア! そのマンガ、買ってきたばかりで――まだアタシ、 読んでいないのよっ」
クレア(OFF) 「ふぅ〜ん――…」
ミリ(OFF) 「――‘ふぅ〜ん’じゃないわよっ。アタシに、返してよ!」
クレア(OFF) 「読み終わったら、ね」
ミリ(OFF) 「メル姉ちゃん、クレアがアタシの――…」
メル(OFF) 「――置きっぱなしにした、ミリが悪いっ」
ミリ(OFF) 「アタシ――制服を、着替えてきただけだもんっ」
メル(OFF) 「――あきらめるのね。でも、クレアさんは飽きっぽいから……しば らくすれば、返してくれるわよ」
ミリ(OFF) 「わぁ〜ん……フォル姉ちゃん――…」
フォル(OFF) 「……もぅ、困ったクレア姉様ね」
電話の声(佐知子) 「ず……ずいぶん、にぎやかね? いつも、そんな風なの?」
貴也 「‘いつも’といぅか、‘いつでも’といぅか――…」
電話の声(佐知子) 「でも――女の子たちが沢山いるみたいだから、安心したわ」
貴也 「え」
電話の声(佐知子) 「――じつは、ね。貴ちゃんに、お願いがあるのよ――…」


居間にて、手を叩く貴也。
貴也 「みんな、注目――…」
クレア 「ん?」
貴也 「――して、ください」
フォル 「どぅしたんですか、貴也さん?」
貴也 「これから、みんなに重大なことを――」
馨子 「――まさか! まさか、まさか――この英荘を、取り壊しちゃうと か――…」
メル 「……老朽化が進んでいるし、ね。仕方ないんじゃない?」
ミリ 「畳も、ぽよぽよだし――…」
馨子 「でも――ここは、貴也くんのお父さんが買ったモノだし、当然建て 替えるんでしょう?」
ベル 「そんなこと、できるの? いままでは、資金がないからって……増 改築すらできなかったのに――…」
フォル 「これから、みんなでがんばれば――きっと、何とかなりますよっ」
リア 「んぅ……建て替えが終わるまでは、アタイたちの秘密基地に住めば いいよな」
フォル 「それでは――…。これからみんなで、がんばりましょうねっ」
一同(貴也を除く) 「は〜い!」
貴也 「あの……‘そぅ’じゃないんだ。この英荘のことを、みんなで心配 してくれるのは、うれしいケド――…」
フォル 「……はい?」
貴也 「‘この英荘に赤ちゃんがくる’って、いぅつもりだったんだ」
一同(貴也を除く) 「えぇっ?」
クレア 「貴也も、スミにおけないわね――…」
貴也 「――は? 従姉妹の佐知子姉さんが、夫婦で旅行をすることになっ たから――三日間ほど、赤ちゃんの面倒を見てくれないかって――…」
メル 「……クレアさん。貴也にそんな甲斐性があったら、だぁれも苦労し ないって――…」
クレア 「確かに……そぅ、ね」
ミリ 「誰か、何か――苦労しているの? どぅして……?」
クレア 「――そんなこと――…。……そんなことを知っちゃうと、アンタま で苦労するわよ。イヤでしょう?」
ミリ 「う、んぅ――…」
フォル 「うふふ……これから、楽しくなりますねっ」


そんなこんなで、赤ちゃんがやって来た。が、
ベル 「え〜と……おむつの代え方って、これで――…。うぅ……動かない でよっ。ん、もぅ……うまく、できな〜い――…」
フォル 「ねんねこ、ね……もぅ泣かないで――…。うふふ……やっと眠って くれたわね」
馨子 「ミルクの温度は、三十何度と――これでいいかしら? あら……どぅ して、飲まないの? おなかが、すいているんでしょう? ほらぁ――…。 ……ねぇ。ねぇ……どぅして、飲んでくれないの!?」
と、てんてこ舞い。
そんな中、リアは寝転がってTVを見ている。しかし、リアの瞳には TVの映像が映ってはいるが、観てはいない。
リア 「――あ〜もう! うるさいな――…」
と立ち上がる。
ベル 「ん、もぅ……何よ、リア。何も、してくれないクセに――…」
リア 「ふん」
リア、赤ちゃんにミルクを与えている馨子の方に歩んで行く。と、哺 乳ビンを取り上げて、自分の頬にあてる。
リア 「――これじゃあ、熱いよ。あと、三度は冷まさなくちゃ――…」
哺乳ビンを馨子に渡す、リア。
馨子 「え」
リア、二階の自分の部屋に上がって行く。
一同 「……」
馨子 「――と、とりあえず冷ましてみましょう。 あ、あら……飲んでる――…」
一同、ますます困惑する。


リア、自分の部屋に入って来る。と、後ろ手でドアを閉じる。
リア(嘆息) 「ふぅ――…」
リア、ドアにもたれる。
リア(独白) 「……赤ちゃん、か。どぅして、こんなに……こんなにアタイは、心 が騒ぐんだろぅ?」
窓際まで歩む、リア。と、窓の桟に胸先が触れる。
リア 「――痛っ」
リア、窓から離れると、自分の胸元を見つめる。
リア 「どぅして――…」
‘抱擁’のパントマイムのよぅに自分を抱く、リア。
リア 「……どぅして、アタイ――」
リア、チカラなく座り込んでしまう。
リア 「――‘聖母’に、なるの?」
切なげに微笑してうな垂れる、リア。
リア 「こんな……‘アタシ’が――…」


クレア 「――クレアお姉様のお帰りよっ」
フォル 「お帰りなさい、クレア姉様――…」
クレア 「……あら、リアは?」
フォル 「今夜は、早く休みました。少し、熱っぽいみたいで――…」
クレア 「……熱っぽい?」
ベル 「それにおかしいのよ、クレア姉さん――…。――自分のことを、 ‘アタシ’と呼ぶよぅになっちゃって――…」
クレア 「……ふぅん」
ミリ 「急に、赤ちゃんの世話をするよぅにもなったし――…」
馨子 「……あたしなんかより、ずっと抱き方もじょうずなのよね」
クレア 「フォル――お茶をいれてくれる?」
フォル 「はい――…」
メル 「クレアさん……‘そぅゆうこと’みたい、ね」
クレア 「ふぅん――…」
微笑して天井(リアの部屋付近)を見上げる、クレア。クレアは、何 も語らない。しかし、何かを知っている事だけは確かな様だった。
(おしまい)


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Last modified: Fri Nov 6 02:46:08 1998
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