RRRR……
フォル「はい、英荘です」
電話「あ、もしもし。高島ですけど英貴也さんはいらっしゃいますか?」
フォル「はい、しょうしょうお待ちください。貴也さーん。お電話ですよ」
貴也「はーい。もしもし、英ですけど」
高島「あら、貴也ちゃん、元気してた?佐知子お姉さんよ」
貴也「あぁ、佐知子姉さん久し振り、何の用?」
高島「何の用はないでしょ何の用は。でも女の子に囲まれてるみたいじゃない、
それなら安心ね」
貴也「べ、別に囲まれてるわけじゃないよ(嘘)」
高島「それでね、お願いがあるんだけど」
貴也「え?」
居間にて、手を叩く貴也。
貴也「はーい、皆集まって」
リア「何だ何だ?アタイ達は鯉じゃねぇぞ」
貴也「ごめんごめん、で、今日は重大発表があるんだけど」
ベル「何、とうとう英荘が潰れるの?収入無いもんね」
フォル「本当ですか!?貴也さん。でもアクエリュースが……」
貴也「違う違う、実は家に赤ちゃんが来る事になったんだよ」
一同「えーっ!!」
フォル「まぁ、楽しくなりますね」
馨子「…貴也君いつの間に!?」
ベル「だ、誰の子?」
貴也「従姉妹の佐知子姉さんの、今度夫婦で旅行する事になったから3日ほど
家で預かって欲しいんだって」
ベル「夫婦?じゃあ貴也さんの子供じゃないの?」
貴也「何で僕の子になるわけ?」
ベル「え?、えぇと、そのぉ……(汗)」
そんなもんだで赤ちゃんがやって来た。が、
ベル「え〜と、おむつの代え方は…… え〜ん。上手くいかないよぉ」
フォル「あ〜よしよし。泣かないでね。あぁ、やっと眠ってくれた」
馨子「ミルクの温度は三十何度と、これでいいかな?あれ?嫌がってる。じゃ
あ温めて…まだ飲んでくれない」
と、てんてこ舞。フォルが少しはまともだけれど、全然なれていない。そんな
中でリアは寝転がってTVを見ている。その表情はいらつきながらも、どこと
なく悲しげ。そして突然ハッと驚いて俯く、少し恐れに似た表情も見せて。
リア「あ〜〜もうっ。うるさいっ!」
と立ち上がる。
ベル「何よ、リア。自分じゃ何もしないくせに!」
リア「ふん」
すたすたと馨子の方に歩いて行き、哺乳瓶を取り上げ頬に付ける。
リア「熱い、あと3度冷やしな」
それだけ言い残すと2階の自分の部屋に上がって行った。
一同「……」
馨子「と、とりあえず冷やしてみましょ。 あ、あら飲んでる」
一同ますます困惑する。
リアは暗い部屋の中、ベッドの上で胸に手を入れる。そこには白い液体が…… 涙がどっと溢れだし、ベッドにつっぷす。そして声を堪えながら涙を流すの みであった。
その後も事ある毎にリアの出す指示は的確だった。皆はそんなリア不思議がり ながらも赤ちゃんの世話に明け暮れ、深く考える余裕はなかった。
夕食時、クレアだけは帰りが遅くいない。
ベル「あー。また泣きだした〜 そうだ。たまにはリアも抱いてみなさいよ」
リア「アタイはいいよ」
ベル「そんな事言わずにさ。ほら」
と強引にリアに押しつける。もう皆リアがかまいたくてしょうがないのを見抜
いていた。そしてリアの愛が一番深い事も。
リアは抱きながら、じっと泣く赤ん坊を見つめていた。一瞬リアの目が光った
かと思うと、突然リアは立ち上がって2階に行ってしまった。
馨子「どうしたのかしら、リアちゃん」
ベル「さぁ…? 赤ちゃんも連れて行っちゃったけど…」
暗黙の合意、リアの部屋を覗きに行く一同。そっとドアを開けると… 赤ん坊
にお乳をあげているリアがいた。その顔は悲しんでいる様でもあったが、慈愛
に満ちた表情であった。皆は固唾を呑んで見守っている。小声で、
貴也「何してるんだろう、リア。まさかお乳を上げてるんじゃ…」
馨子「まさか、だって赤ちゃんを生まなきゃお乳は出ないのよ」
ベル「本当は出てないのに、しゃぶってるだけじゃ ないわよね」
クレア「はーい!クレアお姉様のお帰りだよ!」
仕方なく皆は引き上げる。
クレア「そぉ、リアがね…」
ベル「リアって、やけに赤ちゃんの扱いが上手いし、どうしたのかしら?」
クレア「…………」
しみじみとお茶をすするクレア。
ベル「クレア姉さん…? 何か知ってるの?」
さすがにベルもクレアの様子に気付いた様だ。
クレア「いや……」
クレアは何も語らない。でも何かを知っている事だけは確かな様だった。