接触〜コンタクト


高森尾高校 2年 3組の教室。転入生二人を前にして騒がしい。担任であり、生 物教師の名木田先生が紹介する。
「今日からこの学校でみなさんと一緒に勉強をすることになった、転校生の英 君とフォルシーニアさんです」
英貴也です。両親の勝手な都合により、こんな時期にこ の学校へ転入することになりました。そのおかげで、英荘という下宿館の大家 をやらされてます」
「これから、よろしくお願いします。わたしは、フォルシーニア・サダルスー ド・ルクバァと申します。貴也さんの下宿館に、お世話になってます」

「えぇっ!?」
「とゆーことは、一つ屋根の下にっ!!!」
「うらやましいぞ〜〜」
「あんな可愛い娘とぉ!?」
「オーレーオレオレオレー」

「……」
騒がしい教室を後目に真理が馨子に話しかける。
「この前、学校帰りに見かけた彼氏とあの娘じゃない?」
「…うん」
「‘英荘’……て、さ」
「ん……あの下宿館の大家さんだわ」
「馨子の‘図書館の君’と――運命の巡り合わせじゃない」
教室はまだ騒がしい。名木田先生が怒鳴りつけてもまだ治まらない。
“……………”


休み時間…
「………」
「………」
フォルと貴也の周りは人だかり。この雰囲気にのまれて二人は声を出せない。

「下宿館に住んでるのはフォルさんだけ?」
「でも…まさか 2人きりってことはないよね?」
「そ・そ・そ、それとも、もっとほかにも可愛い娘が…」
「他にも可愛い娘!!」
“なんだかまず〜い予感が…”
油汗が出てくる…

おーい、貴也!これの芯…なくなっちゃったんだけどさぁ…」
リアがシャープペンを片手に教室に入ってくる。傍らにベルもいる。
「………」
「あで???」
沈黙。そして殺気。
「えーと…」
流石のリアも気迫に押されて声が出せない。
「…こんにち」
「かわいい…」
「名前は?」
「かわいい…」
「君達双子だよね?」
ベルがかろうじて口を開いたが、やはりのまれてる。

「………」
「あたしはエインデベル、こっちはリアムローダ。あたしたちは双子で、フォ ル姉様の妹です」
「うおぉぉっ!って事はぁ」
「英荘に!?」

「はぁ…いくら同じ敷地内に中等部があるからって…わざわざ」
「だってアタイ、お金持ってないもん。それにアタイ…貴也しか」
「これでよかったら使いなよ!!!」
「ほら、これ!全部あげる!!」
「……」
次々と出されるシャープの芯。でも、リアはじっと貴也を見る。
「…じゃあ、購買部へ行こうか」
「あ、貴也さん。わたし、行きますから」
「それじゃあ、これで…」
財布を差し出す。
「では行ってきます」
「いってらっしゃーい!」
教室中で返事をする。その様子を見守るベル。

「……」
フォルたちを見送る貴也。
「あんな可愛い娘たちと一緒に住んでるの?」
「ねぇ遊びに行ってもいいだろ!?」
「うらやましいなぁ…」
再び困る貴也…

「………」
「なんなの?ウチの男どもは」
「うん…」
“あたしったら、少しうぬぼれていたのかな?”


「…これ、お願いします」
図書館のカウンターに一冊の本が出される。
はい。えっと…貴也…君」
「え?」
馨子はカードを見ながら貴也に問う。
「この名字ってなんて読むの?」
「え!?はなぶさたかやですっ!あっ!名前はよけいだった…
「うふふ、珍しい名字ね。…じゃあ返却は」
「来週必ず来ますっ!!!」


“毎週本を借りに来ていただけだもの…ね”
「英君…下宿館の部屋ってまだ空いてる?」
「はっ!?」
「んー…僕とフォル、クレアさん、ベルとリア…あとひと部屋かな?」
「おおっその手があったか!!!」
「英荘って家賃いくら?」
「ダメ!!!!!」
突然馨子が大声で立ち上がる。


点描と共にシャープの芯を持ち、ぼ〜っと廊下を歩いていくリア。
「どうしたの…リア?」
心配そうにベルがのぞき込む。
「え…いや、別に…」


「え…えぇと」
立ち上がったはいいが、その後が続かない馨子。
「あっあれ?図書館で…」
「こんにちは、貴也くん」
「なんだかマヌケ…『こんにちは』はないでしょ…
「………」
言ってから恥ずかしさに気付いた。
「あ…あたし、英荘に…今日引っ越す事になってるから…もう空部屋ないと思 う」
“ええっ!?”
「あたしのお父さんと、貴也くんのお父さん…学生時代からの友人で、そう決 めてしまったみたいなの。あの下宿館を売ったのもお父さんだし…」

キーンコーンカーンコーン。
始業のチャイムが鳴る。
大変!急いで中等部まで戻らなくちゃ!行こう!!! リア。じゃあねフォル姉様」
「待ってよベル!!!」
“良かった…馴染んでるみたい”
元気そうな双子たちを見て安心するフォル。

「………」
双子たちが青木の横を駆けていく。それを横目で見てると、フォルとぶつかっ てしまった。その拍子にフォル(貴也)の財布が落ちる。
「おっとゴメンよ!」
“………この人…”
「こちらこそ…注意が足りなくてすみません」
無表情に答える。
「はい、コレ……」
財布を拾う青木。
“ふぅ〜ん。コレは…なかなか”
「失礼します…」
その場を去ろうとするフォル。
「キミ…名前とクラスは?」
「フォルシーニアと申します… 2年 3組に今日転入して来ました」
「俺は 3年 1組の青木…憶えておいてね」
「………」
フォルは答えない。
“やっぱり…いるのね”


“さっきのあたし…変…どうして?”
授業中に思い悩む馨子。
“…それにしても、あたしのお父さんも変よね。下宿しろって言ったハズなの に…知らないなんて言うし、どうしたのかしら?”


あーあ。すでに推薦で進学が決まってるのに…女の子たちと別々 の授業なんて、まじめに受けてられないよな…”
青木のクラスは男クラである。男子校ならまだ割り切れるが、共学での男クラ は淋しい。
“そう言えば、さっきのあの娘、なかなか良かったな。その内ものにしてやる か”
そう考えながら、英語の教科書で隠しているエロ本の娘とフォルを重ねる。
“カラダだけ…ね B-P クックック…


「くすくす。見ーつけた!!!アタシの‘しもべ’…」
高森尾高校を遠巻きに眺める少女。傍らには不気味な巨大ロボットの姿が…
「アレにするわ…」


tomoka-m@is.aist-nara.ac.jp
Last modified: 2000/ 7/15 4:36
第8話 第10話
戻る