時刻むベル


「あんのォ……またあたしの許可なく勝手なことをする!!!」
濃緑色の服に身を包んだ女性が報告書を握りつぶす。無機質で、神秘的で、暗 めで、少し不気味な大広間。
「ネガレイファントル!!! あたしたちも降りるわよ!」
眼前のロボットに向かって叫ぶ。
「あの娘にどちらが本当の‘長’だか、思い知らせてやらなくちゃ!!!」


「いいの?」
「?」
宴会の片付けをしながら、ベルは心配そうにフォルに問いかける。片付けの手 が止まる。
「本当に…いいの?」
「エインデベル……天使は人間のためにいるのですよ」
「フォル姉様……」
「さあ…早くお片づけを済ませましょう…」
ベルは納得はいかないが、これ以上追究するのを止めにした。
「最後に、クレア姉さんを片づけないとね…」
「もう…のめな〜い」
クレアは完全にダウンしていた…


「じゃあ、また。今度学校でね」
駅の改札で貴也と馨子は真理を見送る。二人だけの帰り道、貴也は何ともない が、馨子は貴也を横目で視る。
「貴也くんがいっしょでよかった…」
「え?」
「あたし一人だったら…きっと英荘まで帰れないわ…」
「ハハ…僕だってそうかも…」
実はあまり笑えない冗談だったりする。実際、帰る途中二人は一度道を間違え た。
「ねぇ、腕組んでみない?」
「え!?」
「うふ、冗談よ」
「そ、そお。アハハ…


リアの部屋、リアはベッドの中でぼ〜っとしている。ノックの音がする。入っ て来たのはベル、手には枕を持っている。
「…リア。いっしょに眠ってもいいでしょう?」
「お客さん、帰ったんじゃないのかよ?」
「真理ちゃんなら帰ったよ。今、馨子ちゃんと貴也さんが送りにいってる」
問答無用でリアのベッドに入って来る。
「それならいっしょに眠らなくても部屋なら…」
「うふ…いいでしょう。あたしたちは二人きりの双子じゃない…」
「…ふつう、双子は二人きりだと思う」

「こっちを向いてよマリア!決めちゃったの?貴也さんに?」
「……」
「ベスティアではない人は、ほかにもまだ…」
反対……なのか?
ベル軽く微笑む。
「…」
「ねえ…前世のこと覚えてる?あのころのことって…あんまり思い出したくな いな…最悪だったもの。本当なら、あたしたちのお役目は‘あのとき’に終っ ていたんだよね…」
「ん…」
「フォル姉様が……」
「アタイ…やっぱり、貴也のこと…あきらめようかな」
ベル、跳ね起きて!

「そんな気持ちでいるのならやめちゃいなさいよマリア!!! もともと、 貴也さんはフォル姉様を‘完全体’に戻すために選んだ人なのよ!」
「……なんだよ…やっぱり反対してるんじゃないか…」
「…………」

リアを見つめる目が穏やかなものに変わる。ベルはリアを後ろから抱きしめて 言う。
「……おバカさん…あたしはリアが貴也さんじゃなければいけない、というの なら反対はしないわよ。‘時’を刻んでもよいのか、確認しておきたかっただ け……フォル姉様も…そうおっしゃったのでしょう?」
「ん…」
「そ・れ・に…がんばらないと、馨子ちゃんもライバルになるみたいだから、 ネS2」
「え!?」


「ただいまぁ」
「お帰りなさい…お紅茶入れましょうか?」
貴也のフォルを見つめるその顔を、横目でじっと視る馨子。


「アタイ…アネキみたいになりたい…なれるといいな…」
「あらっそれは無理よ!無理!絶対に…ネ
「どうしてだよ?」
「だって……リアじゃあ、なくなっちゃうもん
「どういう意味だよそれ…」


「自分の部屋で寝ろよベル!!!」
「あんっ!?リアったら!」
上の部屋の声が下の共同リビングまで響いてくる。紅茶を飲みながら、ほほえ ましく聞いてる三人。
「リア…元気になったみたいだね…良かった」
「……」
馨子は、貴也を眺めているフォルを視る。フォルの性格なら、貴也と同じく上 の部屋の方を眺めていそうだが、そうではなくて貴也の方を眺めている。馨子 はその意味を直感する。フォルが馨子の視線に気付いた。
「あ…お紅茶のおかわり、いかがですか?」
「ん…ありがとう、いただきます」
「リア!!!あたしの枕、返してようっ!!!」


ミリと青木が英荘を眺めている。ミリは手に持つ銀色のフロッピーにキスをす る。
「よい夢を…天使たち」


何日か後の高森尾高校。空は日本晴れ、平和な授業。突然稲妻が校庭に落ち、 雷鳴轟く。学校中の視線が校庭に注がれる。煙が晴れると、中から現れたのは フォルの神機アクエリュース!
「あれは!!」
“あれは…わたしの…アクエリュース”

皆の視線が校庭に向かっている時、不意に教室のドアを開けた者がいた。
「…青木先輩?」
馨子の声など当然耳に入らず、青木はフォルを探す。青木の目がフォルを捉え た。フォルはキョトンとしている。青木が間にある机や椅子を押し退けながら、 一直線にフォルの元へ向かう。

“この人、あの時の…一体何をしに…”
「!?」
青木の右手がフォルの首を掴む!
「ううっ!!」
必死に青木の手を引き剥そうとするが、出来ない。フォルは彼がただの‘人間’ ではないことを悟る。ただの‘人間’なら力で負けたりはしない。青木はその ままフォルを持ち上げる。フォルの足が床から離れる。‘人間’なら頸骨が外 れて絶命するところだ。
何するんだ!!フォルを離せっ!!!
叫ぶ貴也を冷やかに見る青木…


tomoka-m@is.aist-nara.ac.jp
Last modified: 2000/ 7/15 4:36
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