貴也のいちばん長い夜


「…で、隠すっていってもどこに隠すの?」
「穴掘って埋めとこうか!?」
さすがリアらしい(?)発想。神機の周りがエネルギー波で包まれ、ゆっくりと、 凄まじい音を立てながら地中に向かって降下していく。
「ああああ…なんてことするんだ…」
確かにそれだと見つかりにくい。でも、大穴開けちゃって…


「ふう… それでは…みなさん」
「いただきま〜す…」
双子達は不満そう。それもその筈目の前にはインスタント麺 4個。夕食にこれ じゃあ…
「こんな物しかなくてゴメンね…」
フォルに謝る貴也。双子達には言っていない(笑)
「いえ…おいしいですよ!」
フォルは優しいのか舌が肥えてないのか満足そう。でもやっぱり双子達は不満 げ。

「明日にでも買い出しに行かなきゃな…」
予定よりも食糧の減りが 2倍、いや 4倍になった。それにフォル(達)にいつま でもインスタント麺だけを食べさせる訳にもいかない。
「明日、一緒に買物に行こうよ…その服のままでいるわけにもいかないし」
「はい?」
フォルはその服のままでいけない理由が分からない。双子達は自分達の服が馬 鹿にされたと勘違いして、眉毛ピクピク。
「いや…もしここで暮らすのなら…生活に必要な物も買ってきたほうがいいか なって…」
フォルはまだキョトンとしている。
「……ね!?」
「アタイもっ!!」
「あたしもっ!!」
「あら?」
ゲンキンなのかフォルから気をそらせる為か、はたまた自分達の欲望 の為か双子達は貴也に詰め寄る。
「えっ!?ちょっと待っ…」
「アタイも! アタイも! アタイも!」
「あたしも! あたしも! あたしも!」
貴也たじたじ…大丈夫か?これから…


バタン!
「…え!?…」
1号室前。ドアが閉められる。
「あたしたちもう寝ちゃうから……」
「貴也はとうぜん!」
「別の部屋で寝るの!」
“…え!?…え!?…”
「あの……」
「あたしたちにすべてまかせとけばいいんだよ!」
フォルが何か言いたげだが気いてもらえない。ベルはこういう事にはガードは 固いのだ。残念だね>貴也(何が!?)
「おいベル、手伝えよ!アタイにばっかりやらせるな」
一人で蒲団を敷いてるリア。
「いいじゃない、リアは力持ちなんだから」
「なんだと!アタイのどこが力持ちなんだよ!?」
「口!!」
「口ぃ!?よく喋るのはベルの方じゃねぇか!!」
「あの、喧嘩は…」
気いてもらえない…諦めてフォルはじっとドアの方を見る。


「寒い……」
今、英荘には蒲団は 3人分しか無い。つまり、貴也の分の蒲団は無い。しかた なく貴也はコートを羽織って寝ている。春とはいえ、流石に寒い。しかも床は フローリング。

コンコン。
「!」
ノックに気付いてドアの方を見ると、フォルが蒲団を抱えて立っている。
「フォル!?」
「双子たち…やっと眠ったんです。2人とも、悪気があるわけじゃないんです。 しからないでくださいね」
「わかってる…けど、わざわざそれを言うために…?」
「貴也さんが寒いだろうと思って…私のお蒲団を持ってきたのですが…」
「…それじゃあ、フォルの蒲団が無くなっちゃうよ……」
え?…私も一緒に寝てはいけないのですか?」
突然の申し出に頭パニックな貴也。
「いや!あの…いけ、いけなくはない…けど」
「それでしたら… 2人で寝るほうが暖かいですから…」

「寒くはありませんか?」
「うん…」
蒲団の中でフォルが聞いてくる。貴也はフォルと反対の方向を向いて寝ている。 フォルの体温が伝わってくる。落ち着かない。
「おやすみなさい貴也さん…」
「おやすみ…フォル」

“眠れない…やっぱり眠れないよぉぉ……”
夜は更けていく。フォルはすやすや、貴也はもんもん。
「んっ…ん…」
ピクッ!!貴也に緊張が走る!どこまで持つかな… B-p


朝。
「あああっ!?貴也の奴〜!!!」
貴也の目覚めはリアの攻撃だった。渾身の力で頬をツネら れる。
「何もするわけないだろ〜」
必死に言い訳する貴也。待てよ、これって言い訳かなぁ?何もなかったんだし。 ちなみにベルは思考停止中。
「それどころが眠るコトもできなかったんだから!」
「『眠るコトもできなかった』だとぉ〜〜!!」
「誤解だ〜!」
「おはようございます…」
「!?」
フォルが起きた。皆笑顔で誤魔化す。
「?」
状況がよく分かっていない。すぐ分かるくらいなら最初からこんな事しないか。
「良く眠れましたか貴也さん?」
「あぁ、気持ち良く眠れたよ」
嘘でもそう言う奴だ貴也は。が、リアの血管がまた一つ切れた事には気付かな かった…


「…フォルは…ほかに欲しい物はないの?」
前が見えないくらいに荷物を抱えている貴也。荷物運びは男の役目。
「大丈夫……ですか?」
心配そうに見つめるフォル。
「こう見えても男だからね…心配いらないよ!」
痩せ我慢痩せ我慢。
「M92F のヘビーウェイトだ!買って〜〜!!!」
「あたし、あの帽子が欲しーーい!」
双子達、本当は天使なのだが、悪魔が微笑んでいるように見える…
「キミたちは…もうダメ!!!」
「アネキの貞操を奪ったくせに…」
「奪ってないって!」
「あぁあ、あたし、選ぶ人間違えちゃった…」
「だからぁ!!」


「ねぇ…アレ…いつも図書館に来てる彼じゃない?」
ショートカットの娘―川崎真理―がポニーテールの娘―岡田馨子―に尋ねる。
「えっ?」
見ると確かに毎週本を借りに来てる人だ。
「でしょ!?」
「……貴也くん?」
「ほお〜馨子は彼氏の名前まで存じ上げている…と!?」
「ヤダ…違うわよ真理!あたし貸し出しの係だから…」
言い訳言い訳。
「しかし…彼氏はここから新宿の図書館まで本を借りに来てたのかしら?」
「さあ…この街で見かけたのは初めてだけれど」
貴也を見つめる。でも気になってるのはその横に一緒にいる美人。
“あの娘、貴也くんの…彼女なのかな…”

不動産屋―馨子の自宅―の前で真理と別れる。
「ただいまぁ!あれ?どうしたのお父さん…?」
馨子の父が頭を悩ませている。
「おおそうだ!ウチには馨子がいたんだ!」
「?」
「馨子!お前はこれから下宿しなさい!」
「えっ!?」
「場所は…英荘という下宿館なんだが…」


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Last modified: 2000/ 7/15 4:36
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