夏 「平次〜これ見てェな。えェもん見つけたんよ」 和葉が自分の家で見つけた手錠を持ってくる。 「ん、何や、これ手錠やないか。どっから拾ってきたんや」 「そうや、懐かしいやろ〜。アタシの家にあったんで〜」 「あんまし近づけんなや。しょうもない思い出が甦るやんか」 「なんやしょうもない思い出て。いい思い出やんか。そんな事言うなら、ほら」
和葉は自分の右手と、平次の左手に手錠をかける。 「うわ〜何しとんねん!手錠かけしくさって」 「心配せんとき、ちゃんと鍵が…あれ、鍵どっか行ってしもた」 「アホ〜!!ほなどなすんねん!」 「しょうがないなァ警察行って外してもらうしかあらへんな」 「う、ちょい待ち、そん前にオレしょんべんしとうなったわ」 「なんやて!?ちょっとぐらい我慢しィや!」 「そんな事言ったかて我慢出来るわけあらへんやろが、ちょっと付き合え」 無理矢理和葉を引っ張って行く平次。 「い、嫌やァ!平次と一緒にトイレに入るやなんて!」 「オレかて嫌や!けどしょうがあらへんやろが!!」  平次が用を足している間、和葉はドアの外で反対向いて、顔を真っ赤にうつ むいている。 「お、お願いやから、音立てんといてや」 「無茶言うなアホ」 「あ〜さっぱりした。何や和葉そんなにもじもじして」 「あ〜せやから、その〜」 「ひょっとしてお前もしょんべんしとうなったんか」 「そ、そんなハッキリ言わんでもえェやんか」 「他にどんな言い方あるゆうねん。ほら、したいならしてきいや」 「う〜」 真っ赤になりながら上目づかいで平次を見る。恨めしい。 「へ、平次御免!」 ゴンッ!和葉は平次の頭を殴る。 「痛ェッ!何さらすんじゃ、ボケ!!」 「いや、平次が気絶してくれたらなァ思て」 「何で俺が気絶する必要があるねん」 「せ、せやから…音聞かれたら恥ずかしい…」 最後はボソボソっと呟く。 「音ぉ〜?しょんべんの音ォ何か聞きとうないわ。そんなん構わずさっさとしィ や」 「そっちは気にせんでもこっちが気にするねん」 「ほな、分かった。耳栓でもしとけばえェんやろが」 「そ、それなら何とか…ついでに目隠しもしてェな」 「目隠しィ?和葉のしょんべんしてる所なんか見とうないわ。オレそんなに信 用あらへんのかいな」 「そ、そんな事あらへんけど、一応用心の為に…」 「あ〜分かった分かった。目隠しでも何でもしようやないの」  警察に行ったが、結局外せなかった。何故かって?それは外れたら話が続か ないからだ!(強引。)夜、平次の家で夕食後。なお、当然夕食の肴は二人の 手錠の事。そういや、こいつらどうやって飯食ったんだ?平次はまだ良いとし て、和葉の右手は手錠が繋がってるぞ。いや、茶碗が持てない平次の方が辛い かな。 「平次〜、和葉ちゃ〜ん。お風呂入りィや」 「おぉ」 「ちょっと待ちや平次。お風呂って!?」 「何やお前は風呂入らへんのか。ばっちいやっちゃなァ」 「そら、お風呂は入るよ〜。そやけど今は…」 「服なら簡単に脱げるで〜、ほら」 「うわ!何すんねん」 平次おもむろに上着を脱いで、腕と手錠の隙間に通す。 「ほら、こうすりゃ簡単に脱げるやんか」 「ほえ〜、器用やなァあ平次」 と上着を全部脱いで、ベルトに手を掛ける。 「ちょ、ちょい待ちや平次!!それ以上脱いだらあかん!!」 「何言うとんのや、全部脱がな風呂に入られへんがな」 「そ、そやから…」 和葉の顔はこれ以上無いくらい真っ赤になってる。 「何恥ずかしがっとんのや。昔は一緒に入っとったやないか」 「こ、こ、こ、子供の頃と今を一緒にすな!」 「そなら、どないすんねん。風呂に入らんつもりか」 「そ、そやから、便所ん時と同じように目隠しするとか…」 「あァ分かった。ほならおのれが入る時にしといてやるから、オレはこんまま 入るで」 「な、な、何やて!?」 「見られて困るのはおのれなんやろ、オレは別にかまわへんからな」 「そ、そんなァ」 「ほんじゃ」 ズボンを下ろしかかる。 「うわ!!」 左手で目を覆う和葉。平次が全部脱いだ辺りでピクリと指を動かす。 「なんや和葉。本当は見たいんじゃないやろな」 「そ、そんな事あるかいな!!!!」 大きく腕を動かす! 「うわっ!アホ引っ張るな!!」 平次は和葉の上に倒れる、全裸で! 「い、痛〜、何や!?頭打ったやないけ」 二人はその状況に気付く。全裸の平次が和葉の上に覆いかぶさっている。端か ら見ても見なくても、とても危ない (^^;; 「あ…」 「よっこらせっと…」 体を起こして四つん這いになる平次。和葉が少し顔を上げると、視界の下に 下のモノが入る。 「!?!!」 和葉は思わず足を上げる。ぐしゃっ… ちょうど膝小僧が平次の股間に… 「ぐぉ…お……」 「きゃ」 平次頭を胸につっぷす。が、感触を味わう事は出来ない。そのまま左に(和葉 から見れば右に)倒れ、下のモノを押さえ込む。 「う゛…な、何さらすねん…和葉……」 男にしか理解できない苦しみが平次を襲っている。 #余談だが、私は女子に股間を蹴られた事がある。上手く引いたので痛みは無
#かったが…その時の女子談。『なんか柔らかい物が当たったよぉ』…さよけ。
「あ、か、かんにん、かんにんな…平次」 和葉起き上がっておろおろ。この苦しみを和葉はどうする事も出来ない。さす るか?(笑)  平次は痛みが治まると和葉の胸ぐらを掴む! 「おい和葉、おのれはえェかげんにせェや!」 「ヒ!?」 「元はと言えば全部おのれが悪いんやゾ」 「ひ、ひっく、か、かんにん、かんにんや…平次……ひっく」 和葉は罪悪感と恐怖からたまらず泣き出してしまった。平次がこんなに怒った のは初めて見る。 #if オカン登場 「ちょっと、風呂場で何騒んどんねん!」 平次のオカン登場。 「!?」 事情を知らない人から見たら平次が準備万端で和葉を襲ってる様にしか見えな い。 「ちょっと平次!!あんた何しとねん!!」 「何て、和葉がオレの…」 「言い訳なんか聞きとうない!!人様の娘に手ェ出しよってからに!」 「手ェ出すって、手ェ出されたのはこっちや!本当は足やけどな」 「お、おばちゃん、こ、これはな…」 「あァ、和葉ちゃんは何も心配せんでえェ。皆このドラ息子が悪いんや」 「だから違う言うとるやんけ!」 #fi  平次は暫く睨み続けてたが、突然プイッとそっぽを向く。 「もうえェわ、ほら立て」 平次は風呂に向かうが、和葉はまだうずくまって泣いてる。 「ほら、立たなオレが風呂入られへんやろが」 和葉ぐずつきながらついて行く。風呂に入ってる時も平次むすっ。和葉は反対 方向を向いて黙っている。 「あ〜、なんか入った気ィせんのう」 平次上がって服を着る。 「ほら、次は和葉の番や、目ェつぶっといてやっから早う服脱げ」 「アタシ、えェわ」 「なんや、風呂入らんつもりか、ばっちィぞ」 「えェもんはえェわ」 「そんなこたァ、オレが許さん。一緒にいるオレが困るんや」 「………分かった」 和葉は何も言わず服を脱ぎ出した。慌てて平次は反対を向く。「あっち向いて て」なんて言い出さないのをいぶかしがりながら。  風呂に入ってる間もお互い一言も口を聞かない。一言も口を聞かないまま風 呂から上がり、服を着る。 「さて寝るか」 「……」 “…どうも調子狂うなァ” 「おい和葉、なんか喋らんかい」 「……」 「しょうがないのう。なァ、和葉。どうやって寝る?一緒の蒲団でええんか?」 コクリとうなずく和葉。 「ほんまにえェんか?」 「……ぇぇ」 「そ、そうか…おのれさえよければ、それでえェんやが…」 どうも調子が狂う。が、どうやって別の蒲団で寝るつもりだったんだ?  蒲団の中に入っても無言。互いに反対向きに寝てる。 「かんにん…かんにんな、平次」 小さな声で呟く。 「なァに、気にすんな。あれくらいの事大した事やあらへん」 「ん、平次、おおきに…」 和葉は平次の方を向く。背中に額を付けてしばらくそのまま。 「な、なんや、気持ち悪い奴やな。和葉」 「平次、こっち向いて…」 「ん?…!?」 振り向いた平次に和葉はキスをする。和葉の目から涙がこぼれる。  口を離す。 「か、和葉、おまえ……」 「アタシの、気持ち…許してくれたお礼…」 「お、お礼って、おまえ」 「ファーストキスやったんよ。お礼にえェやんか」 「ファーストキスって、お前のファーストキスはこんなお礼程度のものやった んか!?」 「そう思う?」 「……」 「そう思う?」 和葉は顔を近づける。視界いっぱいに広がる和葉の顔 「な、な、なんや?」 平次はたまらず顔を引いて、唾を飲み込む。 「アタシ、アタシ、前からあんたの事が…平次の事が…!」 和葉は平次に抱きついてまたキス。さっきよりもより強く。  しばらくして唇を離す。 「……和葉、おまえ、オレん事、こんな風に思っとったんか」 「そうや、平次ったら、ちィともアタシの気持ちに気付かへんで…」 「そうか、すまんかったなァ、今まで気付いてやれんで」 平次和葉の頭を後ろから押して、額を自分の胸に付けさせる。 “!?” ドクン…ドクン。 胸の鼓動が止まらない。 「へ、平次はアタシの事、どう思っとるん?」 「そうやなぁ…今までただの幼馴染みとしか思うてへんやったからなァ」 「幼馴染み…そう、そうやね…アタシらただの幼馴染みでしかなかったもんな」
「ちょい待てェな。今までて言うたやろ」 「そ、それじゃあ」 「これからの事は分からへん。でもただのでない事は確か やな」 「そ、それって、アタシ、喜んでええんの?」 「あァ、少なくとも悲しまんではえェで」 「そ、そうか。そうか…」 「コラ、『悲しまんでえェ』て言った側から泣くんやない」 「うん、そう、そうやな…泣いたらおかしいな」 「あァ。よし、今日はもう寝ようや」 「うん」