米花シティービル。丁度 1年前の爆弾テロ事件でぼろぼろになり、取り壊され ようとしていたが、市民の熱烈な声により奇跡の復旧を遂げた。そのビルの前 で時間を気にしながら立っている、蝶ネクタイの男がいた。工藤新一である。 彼のお蔭で、このビルは完全な破壊から免れた。しかし、その功績を知る者は 少ない。その新一の所にまっすぐ歩いてくる少女がいた。 「やぁ、ら…」 新一はその少女の名前を呼ぼうとするが、その姿に息を飲んだ。赤いスーツに 白のミニスカート。一見何の変哲もない服だが、二人には特別な意味を持つ。 1年前の事件の時に彼女が着ていた服である。新一はその姿に吸い込まれる。 「なぁに?新一、ぼうっとしちゃって」 「い、いや、何でもない。入ろっか」 「うん」 二人はビルの映画館に入る。上映しているのは『赤い糸の伝説』これも丁度 1 年前に上映していたものである。あの事件を忘れないように上映されている。 新一が当時コナンだった事を除けば、何もかもが 1年前と同じであった。 映画は 7時に終る。 「ねぇ、新一、お腹空いちゃったね。何か食べる?」 「そうだな」 「じゃあ、このままここのレストランで食べよっか」 「あぁ」 新一は蘭の様子が普段(いつも)と違う事を感じていた。蘭の言動一つ一つに逆 らえない、そんな気がしていた。 「やっと観れたね、あの映画」 「あぁ」 「新一、寝てなかった?」 「寝てはいなかったさ。必死に堪えてて、内容はほとんど憶えてないけどさ」 「くすっ、新一らし〜い」 食事が運ばれるのを待つ間のたわいのない会話。さっきの感じはやはり間違い か?ワインが運ばれて来る。 「ワインはどうなさいますか?」 「おねがいします」 「お、おい、蘭。俺達は…」 「しっ!たまにはいいでしょ」 「……」 やっぱり何かが違う。普段(いつも)の蘭は自分からお酒を呑もうなんて言わな い。その疑念を遮るように蘭が口を開く。 「乾杯」 「乾杯」 ワインを口にする蘭の頬が上気している。グラスから口を離すと、新一の目を 見つめる。 ドキッ!? 限りなく深い瞳が新一の心を吸い込む。目を逸す事が出来ない。 「ねぇ、新一。この服、憶えてる?」 「あぁ、一年前、着ていた服だろ」 「くすっ、やっぱり見てたんだ」 「あぁ、俺はすぐ次の事件に行ったんだけど、蘭の服は一目見れば憶えるさ」 「ありがと」 ドクン! “まただ、一体どうしたんだ今日の蘭は?…サッキュバス、そうだ、サッキュ バスだ、今日の蘭は” 鼓動が早くなる。 食事が終ると、二人は最上階の展望室に居た。窓の外には二人の街がある。 「奇麗だね、新一」 「あぁ」 「新一が、新一が守ってるんだよね。この街を」 「あぁ、そうさ。俺の…」 蘭の方を向くと、蘭も自分を見ている。目が合う。吸い込まれる。深く、深く、 吸い込まれる。 「蘭、どうしたんだ今日は?まるで…」 「まるで?」 「サッキュバス…」 「くす、サッキュバスが乗り移ったのなら、こんな事してもその悪魔の所為よ ね」 と蘭は新一の肩に手を伸ばす。二人の距離が縮まる。新一も蘭の腰に手をまわ す。そのまま唇が触れ合う。 展望室から出てエレベーターに乗る。新一が 1階のボタンを押すのを制して、 14階のボタンを押す。 「蘭?」 蘭はエレベーターのドアが開いた時にやっと答えた。 「部屋、とってあるの」 淡い光の下、二人は向かい合っている。心拍は速いまま治まらない。 「蘭、あのな、これがどういう事か分かってんだろうな。その、ホテルの部屋 をとって、二人っきりで、その、これは…だな」 「ふふ、分かってるわ。だって、その為にとったんだもん」 二人はまた口づけをする。今度は舌も入れ合う濃厚なキス。そのままベッドに 倒れ込む。倒れ込んだままキスを続ける。 「くは、あ…」 蘭の首筋に舌を這わせ、吸う。蘭の顎が、限界まで上がる。シャツのボタンを 外す。蘭の鎖骨が露わになる。その中央にも舌を這わす。 「あ…」 「どうしたの?」 「俺、コンドーム持ってない」 「大丈夫よ」 「なんで?」 「今日、安全日だもん」 「安全日?」 据膳→SIN1xRAN_32.txt 食べない→SIN1xRAN_33.txt